君の代わりにはなれない
- 鳥 今雄
- 2013年12月18日
- 読了時間: 2分
更新日:5 日前

今日僕は、この世の中は僕の知る手触りよりもずっと複雑で歪で不条理だということ知った。僕の大切な人たちは、僕が知らないところで、僕が知っていたことよりもずっと、多くの苦しみを抱えていた。それを今日知った。『無敵のヒーロー』は現実にいないから、仮面ライダーやウルトラマンは存在するのだろうか。
僕は今日、姉が通う精神病院まで彼女に付き添っていた。二人で時々なにかを話しながら、駅から病院までの道を俯くようにとぼとぼ歩いた。病院前には、閑散とした広い公園があり、姉の診察が終わるのを待ちながら、僕はベンチに座って待つことにした。樹木も少ない殺風景な公園は、閑静な住宅街に忘れられたてしまったようで、公園というよりは空き地のようなところだった。公園を取り囲むように二階建て住居の壁が立ち並び、公園の上だけ真四角の空が見えた。飛行機雲が見えて、どこからか金木犀の香りがした。今日は十二月にしては暖かく、近づいてくるクリスマスや年の瀬とも無縁のような『ただの平日の午後』だった。
僕は今日、たくさんのことを頭の中で考えていた。隣で歩く姉には僕の頭の中にあったことは話さなかった。そして、あの時飛行機雲を見ていたら、僕も自分が何を考えていたのか忘れてしまった。ただ、「逞しくなりたい、もっと優しくなりたい」とぼんやり感じたのだけは、覚えている。