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クロマ

 映像の学生だった頃、デレク・ジャーマンはわたしにとってレオス・カラックスと並んで特別な存在だった。

 それは今でもかわらず、ゲイだった彼がエイズで亡くなる直前まで病院のベッドで書き続けたこの手記を、わたしはおそらく一年に一度は読み返している。


 この本は、彼の愛した人々と人生にまつわるエッセイであり、それらを彩った様々な色彩(クロマ)への愛の詩集だ。

 エイズで死んで行った恋人たちとの思い出の追憶や、ついに自身にもやってきた死の孤独。恐怖にいらだち自暴自棄になりかけながらも、彼の気品ある文章や思考は最期まで陰ることなく鮮やかな色彩に寄り添うように記されている。

 少しずつ精神と肉体が弱り、死に近づいていくデレク・ジャーマンの思想はとても繊細だが、自身の身に起きた不運に泣き濡れるような弱さは感じさせない。残された時間への焦りを感じさせることはあれど、あくまで彼は凛と美しいのだ。


 『クロマ』という、この青い本を読む時はいつも、終焉への過程を、彼のベッドサイドで一緒に見つめているような気がする。その度に、彼はひっそりと美しく、同じように死んでいく。それが悲しい。

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